【園バスの中で何を話してるの?】

 【園バスの中で何を話してるの?】

 

 皆さん、こんにちは。

 雨の日がだんだんと多くなり、子どもたちも室内で遊ぶ機会が増えてきましたね。外で遊べない分、元気が有り余っている子もいるかもしれません。それでも子どもたちは幼稚園が大好きなようで、朝は登園を楽しみにし、帰りは「こんなことしたよ」等とお話してくれます。今回は、そんな子どもたちの園バスでの様子についてお話していきたいと思います。利用しているお子さんとそうでないお子さんがいらっしゃいますが、利用していないからお友だちがどうとか、育ちがどうということはありません。また、園バスの利用を推奨しているわけでもなく、園バスの中ではこんな感じなのかという程度でお読みいただければ幸いです。

 

 幼稚園が始まって、1か月半が経ち、年少さんにおいてもだんだんとお母さんやお父さんと離れるのに抵抗が少なくなってきた子が増えてきました。それでも、どの学年の子どももお母さんやお父さんと会いたくなったり、離れるのが寂しくなったりして涙が出てしまうこともあります。そんなある朝、とても心温まるエピソードがありました。

 

 ある年中組の男の子が園バスに乗る際に、お母さんと離れたくなくてなかなかバスに乗ることができませんでした。どうにかバスに乗ったのですが、バスの中でも泣きながらうつむいて、私の話も耳に入らないといった状況でした。バスが動き出して間もなく、先に乗っていた年長組の男の子が、「先生、手遊びしよう」と誘ってきたので、一緒に手遊びをすることになりました。既に乗っていた3人程度の子と一緒に“棒が一本”という手遊びをすることになったのですが、この手遊びは最後に指名された人やモノに向かって「シュー」と言いながら指をさす遊びなのです。

 年長の男の子は静かに歌いだし、最後に泣いている男の子の名前を指名し、「シュー」と指さしました。そして、「俺も昔、泣いたことあるよ!ママと離れて泣いた~」と自信満々に言いました。すると他の年長の男の子も「俺も泣いたことあるよ」と続いたのです。

 子どもたちなりに、同じバスに乗っているお友だちが泣いていることを気に病んでいたのでしょう。それから少しの間、自分たちがいつ、どうして泣いたかということを話し始めました。

 しばらくすると、泣いていた子と仲の良い年中組の男の子が乗ってきました。その子は乗ると早々に、「先生、○○君なんで泣いてるの?」と聞いてきました。私が「お母さんと離れるのが寂しかったんだって」と答えると、「そうなんだ、それでさ、昨日ポケモン見たんだけど・・・」とポケモンの話をし始めました。そして時折、「○○って強いよね」と泣いている子にも声を掛けながら、私と話を始めました。そうして話をしていると、次第に泣いていた子も「僕も見たことあるよ」、「○○も空飛べるんだよ」と会話に入ってきて、園につく頃には自分が泣いていたことなどすっかり忘れてしまったのかと思うくらい元気になっていました。

 気持ちの切り替えが早い年齢の子どもたちだからこそ、尾を引かないということもあるかもしれませんが、子どもたちがそれぞれにお友だちのことを思い、それぞれの方法で励まそうとしている優しい姿を見ることができました。年長の子は学年が違うということもあってか、「大丈夫だよ」とストレートに声を掛けるのではなく、手遊びをすることで皆が心配していることを暗に伝え、自分たちの経験を話すことで、誰にでもそういう経験や悲しさがあることを教えてくれました。そして、そうした悲しみを乗り越えて、年長さんになるとこんなにもかっこいいんだぞ、とたくましい将来像を示してくれています。

 また、年中組の子はいつも話している内容を話し、時折、泣いていた子にも声を掛けることで、いつでも会話に入れるようにしてくれています。そして、泣いていた子が話しに入ってきても、心配しすぎている姿を見せずいつも通り話をしてくれました。

 こうした状況の時は、大人よりも子どもたちの方が余程頼りになるかもしれませんね。また、こうした育ち合いが、また子どもたちの成長を支えてくれているのだと思います。

 

 もうひとつ、おもしろかったお話をしますね。

 私がある年中組の男の子に「○○君は誰と仲がいいの?」と聞いてみると、その男の子は「△△(バスの名前)バスの子たちと仲がいいよ」と教えてくれました。すると隣にいた同学年の女の子が、「誰が一番好き?」と男の子に尋ねました。男の子は「えーっとね、○○ちゃん」と尋ねた女の子の名前をあげました。女の子は照れながら「えっー、○○君じゃないの?」と聞きましたが、男の子は「○○君は違うよ」と答えました。女の子が「じゃあ2番は?」と聞くと男の子は「2番はいない」ときっぱりと答えたのです。

 私はそれを聞きながら「おっ、やるやん」と思い、あえて黙っていましたが、男という生き物はダメですね。その男の子は続けて、「でもね、意外かもしれないけど3番は□□ちゃん」と別の女の子の名前をあげました。そして、女の子に「意外でしょう?」と尋ねると女の子はちょっと残念そうに「わかんない」と反対を向いてしまいました。男の子が「自分でも意外なんだけど、□□ちゃんが好きなんだよね」と私に話してきたので、私が「○○君は皆と遊びたいんだね」と聞くと、男の子は「そうなんだよ、僕はたくさんお友だち作りたいんだ」と答えてくれました。

 まぁ男とは愚かな生き物だなと痛感しますが、限られた空間で長い時間を共にしているからこそ、色々な話ができるのだと思います。それとともに、同じ時間を毎日過ごすことで仲間意識が生まれたり、他の子のことを知ることができるのだと思います。そして幼稚園でそのことを別の子とお話し、情報を伝達していく。だからこそ、子どもたちは子どもたちのことを学年が違ってもよく知っているのかもしれませんね。ちなみに、この男の子と女の子は今も仲良く過ごしていますのでご心配なさらないでくださいね。

 

 園バスの中で、子どもたちは本当に色々な話をしています。「○○行ったことあるよ」とか「○○したよ」と誰かが言うと、「僕も」「私も」と次々に教えてくれます。そのような中で、自分の知っていることと違えば「違うよ」と訂正しますし、知らいないことはじっと聞いています。聞いていないようでも、知っている内容になったとたん話し始める子もいます。園の中では一緒に遊んでいる姿を見なくても、バスが一緒だから知ってるよ、お友だちだよという子もたくさんいそうです。“よく遊ぶからお友だち”という目に見えやすいお友だち関係だけでなく、子どもたちの中にも複雑な関係性があるのだと思います。

 

 現在、コロナの関係もあって、園バスでは窓を開け換気をし、乗車前の消毒と乗車中のマスクの着用はお約束として行っています。また、あまり大きい声を出さないように注意を促したりもしていて、子どもたちにとっても不便であると思います。その中でもお友だち関係を育んだり、園生活への期待を高めたりしながら、園バスでの時間も楽しんでほしいと思っています。

 

 浅井 広