【話し合う5歳児】

 【話し合う5歳児】

 

 皆さんこんにちは。

 ようやく夏の暑さも抜け、涼しい風が気持ちよい季節となってまいりました。秋はたくさんの行事があり、子どもたちも行事を通じて様々な経験と学びを深めていく時期ですね。

 

 さて、今回は前回の続きのような形で、1つ事例をご紹介したいと思います。前回は、「自分で考え、納得して」行動できるような子どもを育てたいという話をさせていただきました。

 今回は大学生の実習生が体験した事例をもとに、子どもたちが幼稚園の中で遊びを通して考えている様子をお伝えしていきたいと思います。

 

 事例:年長(5歳児)

 昼食の時間に一緒に食べていたMくんに「先生!ご飯終わったら外でおにごっこしよう?」と誘われました。私は「うん!いいよ」と答えました。それを聞いていた他の子も「私もやる!」「僕もする!」と次々に言い始めました。「じゃあ、ご飯終わったらみんなで遊ぼっか」と答えると、「かくれんぼがいいなー」「えーおにごっこが良い」と言い始め、ご飯がまったく進んでいなかったので「ご飯食べ終わってからみんなで決めよね」と言うと、子ども達は「うん!」と言ってご飯を食べ始めました。

 自由時間となりみんなで外へ出ると、私は「何して遊ぶ?」と子ども達に聞きました。おにごっことかくれんぼの2つの案が出ました。昨日の反省会で「少し揉めてしまっても子ども同士の話し合いは必要です」と先生からアドバイスを頂いていたので、「どっちをするかはみんなで決めてね」と伝えて話し合いを見守ることにしました。「じゃあグッパッパしよ」という案が出て子ども達はグッパッパを始めました。何も決めずにグッパッパし始めたので「ちょっと待って!グーがおにごっこでパーがかくれんぼにしたらどう?」と話し合いに入ってしまいました。結果、おにごっこをすることになり、私が「鬼とバリアはどうする?」と聞くと「鬼は1人!」「えー2人にしよー」や「バリアは有り!」「無しでいいやん」と次々と意見を言いました。話し合いが終わっておにごっこを始めようとすると、お片付けの時間となり結局おにごっこは出来ませんでした。

 

 5歳児さんらしい事例ですね。話し合っていたら結局したいことができなかったという可愛らしいオチでした。

 

 この事例を考察するにあたり、まずはこの事例が起こる要因をいくつか挙げてみたいと思います。

 まず「鬼ごっこ」や「かんれんぼ」、「バリア」に対する共通認識を持てていることがあげられます。例えば「鬼ごっこ」や「かくれんぼ」がどのような遊びか分からなければ、こうした話し合いはできません。これは3歳、4歳の時に子どもたちなりに鬼遊びを行ってきた結果と言えますね。

 

 加えて、言葉の獲得という要因も挙げられます。例えば「ご飯終わったら外でおにごっこしよう?」という子どものセリフがあります。一見するとなんて事のないセリフですが、子どもの発達を捉えるうえでは、非常に大切なセリフです。というのも、この子をはじめ他の子どもたちも「ご飯の後には遊ぶ時間がある」ということが分かっているからです。「今」が大切な3歳児さんならば、もしかしたら「今、遊びたい」というかもしれません。ですが、5歳児さんでは次の活動を予測し、今は何をする時間かを考えて、遊びたい気持ちを持ちながらご飯を食べています。こうした予測する力は言葉の獲得とともに育まれるといわれています。言葉を育みながら、先のことを考えて自分の行動を決めているのですね。

 

 そして、大切な要因として、話し合える仲間がいるということが挙げられます。自分の思いを素直に発言できるのは何故でしょうか?まして、相手に反論してまで自分の思いを伝えられているのです。その理由としてあるのは、相手に思いを伝えたいという気持ちと、お友だちなら自分の思いを伝えられる、伝えても受け止めてくれるという自信と安心感があるからではないでしょうか。こうした人間関係の広がりや深まりも影響していると言えます。

 

 他にも要因はありますが、これらの要因が合わさって、こうした話し合う事例が生まれるわけです。こうした要因が育つには時間がかかります。3,4歳児さんではこうはいかないでしょう。そのため、5歳児さんらしい事例なのです。

 

 さて、それでは事例を簡単に考察してみたいと思います。

 この事例からしても、子どもたちがいかに遊びを楽しんでいるかがわかりますね。お友だちと一緒に遊ぶということが、本当に嬉しいことなのでしょう。

 そして、色々なやり取りがあった後、「じゃあグッパッパしよ」という案が出てきました。しかし、グッパッパで何を決めるのかを決めていません。グッパッパがどのような行為なのかは私もわかりませんが、おそらくチームを二つに分ける、多数決のようなことをしたかったのでしょう。グッパッパでなければならない理由はありませんが、子どもたちはとりあえずどっちの意見が多いか知りたかったり、何か進展が欲しかったのではないかと推察されます。言い換えると、グッパッパのやり方は理解しているけど、理由はまだわかっていないということでしょう。

 このことも子どもの育ちを見るうえでポイントになります。4歳さんとじゃんけんをしたりすると、グーチョキパーは出せるのに、どっちが勝ったかはわからないということがよくあります。これも、やり方は理解しているけど、結果はわからないということです。今回のグッパッパも子どもの理解度を見るうえでは面白い観点といえるでしょう。

 

 事例に戻りますと、鬼ごっこをすることになった子どもたちは、鬼の数やバリアが有りか無しか等を話し合ったようですね。

 ここがこの事例の2つ目のポイントです。「鬼の数」というのは、逃げる役に対して増やさないと面白くなりません。そのため、子どもたちは鬼ごっこをする人数に対して鬼の数を経験則から導き出しています。4人なら鬼は1人、6人だったらどうしよう?といった感じです。

 また、バリアに関しても同じです。逃げる側からするとバリアは必要です。ですが、鬼からすればバリアほど悩ましいものはありません。そのため、逃げる側になることを考えた子どもは「いる」と答えるかもしれませんし、鬼になった時のことを考えた子どもは、「いらない」と答えるかもしれません。

 

 そして、それぞれの思いをお友だちに伝え合うのです。そうすると、「6人で鬼ごっこをするときは鬼1人でいいと思ったけど、○○くんが言ったみたいに2人のほうがいいかも」とか「バリアがあると、確かに私が鬼になっちゃった時に捕まえられないかもしれない」というように、子どもたちなりにまた考えるのです。

 

 こうした時間が子どもたちを成長させるんでしょうね。そのため、保育者も前日に実習生に対し「見守る」ということを教えてくださったのだと思います。

 

 それでは保育者は見守っているだけか、という話ですが、保育者は子どもたちの思いを見守りながら引き出す役割をしています。「どうしてそう思うのか」を聞き出すわけですね。そうすると、発言した子どもは考えを整理することになりますし、ほかの子どもたちは、その子の意見をより詳しく聞くことができるわけです。

 

 このように話し合いながら、他の子どもの意見に耳を傾け、意見を受け止め、自分の思いを発言し、そしてルール等を決めて遊びます。ですが、当然うまくいかないこともあります。そうしたら、また話し合っていろいろと考えるのです。子どもたちの遊びもまたトライアンドエラーの繰り返しなのです。

 

 でも、それが人の成長には必要です。この事例に出てくる子どもたちは、5歳児としてちゃんと育っていると思います。

 私たちは「遊べなかった」という事実に目を向けるよりも、遊ぶための準備にたくさんの時間を使った子どもたちの姿を認めてあげたいですね。

 

 

 松山東雲短期大学 保育科

 講師      浅井 広