【制作活動が保育で行われる理由】

【制作活動が保育で行われる理由】

 

 皆さん、こんにちは。

 新年度が始まってはや1ヶ月が経とうとしております。だんだんと暖かな日が増え、長袖では暑いくらいになってきましたね。私は冬よりも夏派なので嬉しい限りです。

 

 今回は制作活動について書こうと思っております。ちなみに、一般的に使用する「制作」と「製作」は明確な違いがありますが、保育で使う「制作」・「製作」については、地域や時代によって違いがあるようです。関東では「製作」を使っていましたが、中部・関西は「制作」を使ったりするみたいですし、私が学生の時は「「制作」と書く人はもぐりだ」と教えられました。まぁ、私はどちらでもかまいませんが、愛知は「制作」を使うと以前聞いたので、今回はこちらを使用していきます。

 

 この制作活動ですが、子どもの遊びとしても、保育においても重要な意味を持つ活動であると考えられています。ちょっとイメージしにくいところもあるかもしれませんが、子どもの主体的な活動としての制作活動(一斉活動以外の制作活動)について解説していきたいと思います。

 

 今回解説させていただくのは、以下の3点についてです。

 ・モノとの関わりから人との関わりへ

 ・「無い物は作るしかない」が子どもの遊びを楽しくする

 ・制作活動を通して気持ちも成長する

 

 〈モノとの関わりから人との関わりへ〉

 4月、5月は子どもたち同士の関係性がまだ希薄な時期です。特に新入園児は人と遊ぶよりもモノと遊ぶことが多くなります。家族と離れて生活しなければなりませんので、どこかしらで心細さを感じているわけです。ましてお友達も少ないとなれば、園内で一人でも安心して過ごせる、モノとのかかわりを選択するのはよくわかります。ここで心許せる保育者がモデルとなり制作活動などを始めると、子どもたちも「おもしろそう!」と思えることに加え、モノとゆっくりと安定して関われるため、制作コーナーは何人かの子どもたちでいっぱいになるのです。

 そうした活動が継続すると、次第に隣に座って制作活動を楽しんでいる子にも興味が湧いてきたりします。あくまでもモノとの関わりがメインであり、人との関わりは副次的でありますが、それでも次第にお友達との関わりも生まれてきます。その関わりが、お友達関係に発展していくための土台になるんです。

 

 〈「無い物は作るしかない」が子どもの遊びを楽しくする〉

 年中さんや年長さんは、年少さんに比べ園での人間関係の基盤がありますので、5月となれば数人の子どもたちで遊ぶ姿が見られることでしょう。

 年中さんと年長さんの制作活動はそのディテールが大きく異なりますし、人間関係も異なりますので一概に比較することができませんが、類似する部分の1つとしては「無い物を作る」というところでしょう。

 遊んでいる子どもたちを見ていると「こうしたい!」「もっとここを可愛くしたい!」というような思いがあることがわかります。でも、それらの道具や材料が都合よくあるわけではありません。例えば、お店屋さんごっこをしている4歳児さんは、お店屋さんごっこ自体を楽しみたいので、売っているもの質(細かさ)やお金のやりといった細かい部分は気にならなかったりします。しかし、5歳児さんはより現実に似たお店屋さんを想像しますので、売っている物の数や質、お金のやり取りなども現実に似た形で再現しようとします。これは4歳児さんが劣っているとか、5歳児さんの遊び方の方がよいという問題ではなく、人が育っていくに様々な過程があるのと同じように、遊び方にも過程があり、子どもたちはそれぞれの成長にあった遊び方をしているということです。

 

 話を戻しますが、お店屋さんごっこにしても「作る」ことが思い通りにいかないことが多々あります。そのため試行錯誤します。そして上手くいく時もあれば、そうでない時もあるのです。でも、おもしろいのは、その失敗の中に偶然性が含まれていることです。思っていたものとは異なるモノが、意外と思った通りのモノよりも面白くなったり、上手くいったりするのです。このことが、さらに遊びを面白く発展した形にしてくれます。こうして子どもたちは、新しい発想や自分が知っている活用法とは別の活用法を知るのです。あるモノを別のモノで置き換えたり、別の用途で使うという点で言えば、これは子どもたちの「知恵」と呼べるでしょう。

 

 〈制作活動を通して気持ちも成長する〉

 これまでお話ししてきたように、子どもたちは遊びをより面白くするために「作る」という活動を取り入れます。お店屋さん以外でも、リレーをするときはバトンやたすきを作り、ドッチボールをするときはボールを作り、ごっこ遊びの時は洋服や食事を作って遊びをより楽しみます。そして、保育者はあえて既製品を準備しない配慮もします。

 ゼロから作るということは大変で技術も必要な反面、自分の手ひとつで、無限大の可能性をもって作ることがでるからです。思い通りにできるのも、できないのも自分次第。保育者の手を借りながらも、納得いくまで作り込んでほしいのです。

 その一方で、相手はモノですので形を変えられなかったり、壊れたり失敗したら無くなってしまうこともあります。その時は、子ども自身がモノに合わせるしかないのです。発想を変えたり、妥協したり、もう一度作り直そうと思うしかありません。それもまた、子どもたちの成長にとっては欠かすことのできないポイントです。世の中、自分の思い通りに物事は運びませんからね。柔軟な発想と気持ちを切り替えられることも学んでほしいのです。

 

 今回は制作活動に関して3つのことを解説させていただきました。保育では制作や運動、音楽など、ある意味、専門的と思われる活動が取り入れられています。ただ、これらはその技能を高めることを目的にしているわけではありません。専門家の中には、〇〇運動すると体力が上がるとか、音楽家になるためには〇歳までに音に慣れなければいけないとか言います。それらの主張は間違っていない面もあると思いますが、幼児教育で扱う制作や運動、音楽の意味とは異なります。あくまでも幼児教育では、こうした活動も含め、総合的な子どもの育ちを支えていく意図で行われているのです。

 子どもたちには様々な活動を通して、楽しい、嬉しい気持ちを存分に感じながら育っていってほしいですね。

 

 

松山東雲短期大学 保育科

講師      浅井 広