【保育にとって大切な計画】

 【保育にとって大切な計画】

 皆さん、こんにちは。
 本年度、ご卒園される子どもたち、ご家族の皆様におかれましては、ご卒園誠におめでとうございます。

 新型コロナウイルスの影響で世の中も大騒ぎとなっていますが、皆さんもお子さん同様、どうぞご自愛くださいませ。

 新型コロナウイルスの影響により、本学においても卒業式ならびに卒業パーティーが中止となり、それらに付随して卒業証書・学位記をどのように配送するか、それらの費用をどうするかももちろんですが、学生さんが借りる袴等の貸衣装の代金やパーティー会場費の折衝、卒業式が中止となっても当日大学に訪れる学生さんへの対応をどのように図るか等、色々な懸案事項があがり、それらの対応に追われました。

 卒業する学生さんたちにとって人生で最後になるかもしれない卒業式、2年間もしくは4年間共に学んだ仲間たちとの別れと新たな旅立ちを共有できぬまま卒業しなければならい状況を思うと大変心苦しい判断となりました。もちろん各教員から色々な意見があがり、様々な卒業式の在り方を検討しましたし、中止となってもできるだけ学生さんの卒業を祝える配慮をしたつもりでありますが、学生さんの気持ちを思うといたたまれなくなります。ただ、学生さんとご家族の健康を考えると、リスクがあるうちは実施することが難しいということになりました。

 そのような中でも、卒業式当日に元気な姿を見せてくれた学生さんやメール、Line等でメッセージをくれた学生さんの言葉を見ると、社会人としての第一歩を前向きに捉えてくれており、心から新たなスタートを頑張ってほしいと願う気持ちでいっぱいです。

 そんなこんなで慌ただしくもモヤモヤした気持ちで2月、3月上旬を過ごしたわけですが、その後の首相会見で「卒業式はぜひ実施して」との言葉がありました。多くの教育関係者は「いまさら」と呆れたのではないかと思います。本学も既に式予定日は過ぎていましたし、他の多くの学校も中止を決定していました。政府も色々なことを検討したと思いますが、授業は自粛させて卒業式だけはやってほしいというのは現実的ではないですよね。
 また、学校は学生さんやご家族のことを一番に考えますが、卒業式には色々な業者さんも関係します。今回の件に関して、本学では、ほぼすべての業者さんがキャンセルを無償で引き受けてくださいました。学生さんのことを考えて無償にしてくださるようお願いしたわけですが、そうした業者さんと普段から交流があるだけに、業者さんのことを思うと何とも言えない気持ちになりました。
誰のせいでもありませんが、誰が得をするわけでもありませんので、ワクチンや特効薬がいち早くできることを願ってやみません。

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回は卒業式にちょっとだけ関連して保育の計画についてお話ししたいと思います。「10の姿」が幼児期の終わり、つまり年長さんの後半ごろに見えてくるというお話しをしてまいりました。そして「10の姿」は、子どもの自発的な遊びを大切にした保育を実践することで子どもの姿として見えてくるものであり、「10の姿」に向けて保育をするわけではないということを説明させていただきました。

 それならば、「保育者は毎日子どもたちと遊んでいれば良いのか」ということをよく言われますが、そうではありません。表面上、遊んでいるようにしか見えないかもしれませんが、その遊び方や遊んでいる子どもたちへの声の掛け方、子どもたち同士のトラブル等をどう援助するか等、それら1つ1つに意図を込め、その子の成長を考えながら保育をしています。
 加えて、子どもたちの遊びをどう膨らませようかとか、次はどのような遊びに発展していくだろうか、そのためにどのような準備をしておけば良いか、各行事との関連性はどうであろうかといった保育の意図や考えをもって保育はなされています。その支えとなるものが、保育の計画です。

 まず幼稚園には教育目標と教育方針があります。そして、それらをちょっと具体的にしたものとして教育課程と呼ばれるものがあります。
〇教育目標・・・どのような子どもたちを育てたいか
〇教育方針・・・どのようにして子どもたちを育てていくか
〇教育課程・・・これまでの子どもたちの姿から、その園での3年間の大まかな子どもの成長と園の保育をまとめたもの

 これらを具体的に達成するためにたてるのが計画です。具体的には、以下のものがあります。
〇年間指導計画・・・その年、一年間の大まかな園のスケジュールや子どもたちの予想される遊び、活動等を示したもの
〇期案(期間の計画)・・・一年間を園で決めた「期」(例えば、4~6月をⅠ期)に分けて予想される子どもの育ちや遊び、活動、保育等を示したもの
〇月案・・・その月の予想される子どもの育ちや遊び、活動、保育内容やスケジュール等を示したもの
〇週案・・・その週の予想される子どもの育ちや遊び、活動、保育内容やスケジュール等を示したもの
〇日案・・・その日の予想される子どもの育ちや遊び、活動、保育内容やスケジュール等を示したもの
 上記計画の中から、園で決められたものを保育者が作成していきます。
ちなみに、「年間指導計画」と「期案」、「月案」を長期の指導計画、「週案」、「日案」を短期の指導計画と呼んでいます。長期の計画は、各学年でそれぞれの時期にどのように育っているだろうかを予め予測するためにあり、短期の計画は具体的に日々どのように保育をしていくかを考えるために使用します。「木を見て森を見ず」にならないよう、またその逆もしかりですが、両方を照らし合わせることで、バランスよく子どもの育ちを捉えていきましょうということになっています。

 また、これらと共に個々の保育者が子どもたちの記録を作成したり、幼稚園では「幼児指導要録」といって「10の姿」を踏まえた一人ひとりの資料を作って、主に小学校との接続に使用したりする書類もあります。

 この計画と記録が保育ではとても大切であり、保育者の保育を支えています。保育者は毎日、反省と予測を立てて保育をしているのである程度のことには対応できますし、子どもたちの1歩、2歩先の成長を願って、意図を込めて援助ができるのです。ただ、時に保育者の予測を超えて子どもたちは行動をしますし、今年のように不測の事態が起きて保育自体ができなくなったりすることもありますので、その場その場で計画は修正していかなければならないものでもあります。計画といってもプランの意味ではなくマネジメントですので、絶対にしなければならない計画ではなく、柔軟に修正しながら実践していくものとなります。
 
 今回の卒業式、幼稚園で言えば卒園式も在学生、在園児にとっては、その「式を見る」ということに教育的な効果が含まれていました。1年後の自分たちの姿を想像するということは子どもたちにとっては大きな意味があると思うのです。最終学年になることへの自覚もそうですし、カッコイイ年長さんになりたいという憧れを持つこともできます。また、卒業式や卒園式に感動した子どもたちの中には、「卒園式はこうだったよね!」と覚えている子もいるでしょう。そうしたら1年後の卒園式の前に、保育者が子どもたちに所作を教えるのでなく、子どもたち同士で教え合うという保育方法に変更もできるかもしれません。

 こうした予測も保育の計画の中には含まれいるのですが、今回のことで来年度はまた少し計画を修正して保育が考えられていくことになるかと思います。
 保育というのは、このように計画と記録を基に柔軟な対応が日々求められる営みなのです。だからこそ、保育者はプロ(専門職)であって、幼稚園教諭も保育士も国家資格となっているのです。ただ、予測して計画を立て、実践をして、反省をして、また予測してというサイクルが大変難しいとともに、とても労力と時間のかかる過程となるので、保育者の業務を圧迫している要因の1つにもなり得てしまいます。
 そのような中でも、子どもたちが好きで、子どもたちの成長を自分の喜びとして感じ、子どもたちにいろいろなことをしてあげたいと思うのが保育者です。保育者の専門性の陰には、こうした見えない努力があることも是非知っていただければと思います。

松山東雲短期大学 保育科
講師      浅井 広