【豊かな感性と表現】

【豊かな感性と表現】

 皆さん、明けましておめでとうございます。
 今年も皆さんに保育について私なりに頑張って解説していきたいと思いますので、宜しくお願い致します。

 さてさて、昨年から書かせていただいてきました「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」も今月で最後の項目となりました。最後は「豊かな感性と表現」になります。

 「豊かな感性と表現」とは何でしょうか?いつもと同じように教育要領解説を見てみましょう。

 心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、意欲をもつようになる。

 幼児期の終わりといえば、ちょうど今の時期になりますが、この時期になると自分たちが経験したこと、例えばお正月の遊びや年賀状をもらった経験などを基に、いろいろな素材や道具を使って、凧やおせちを作って遊んだり、郵便屋さんごっこをしたり、お友だちに手紙を書いたりして遊んでいますね。こうした心を動かす経験とこれまでしてきた遊びと、遊びを通して学んできた素材や道具などの使い方を駆使して、仲を深めたお友だちと一緒に遊びを展開しています。

 そういった意味も込めて、また園での集大成として、この時期に幼稚園や保育園では「生活発表会」や「発表会」などの催しをする園も多くあります。ただ、どうしても見た目を気にしてしまったり、子どもたちで色々と決めると時間もかかるので、保育者がほとんど決定して、子どもたちに踊りや楽器の演奏の仕方を教え、たくさん練習して備える園が多いようにも思えます。もちろん「発表する」、「表現する」ことの意味を子どもたちが感じ、しっかりと年長組としての誇りを形にしたいという思いや、保護者の方々の思いや期待に応えたいという思いが保育者にあることはわかりますが、教育要領などで解説している子どもの表現とは少しズレているようにも思えてしまうのです。

 今年も何人か卒業生が「発表会で〇〇をするので良い楽譜ないですか?」とか「今年は〇〇のダンスするんですけど、どうやって教えたら良いですか?」と相談に来てくれました。保育者も一生懸命ですし、子どもたちに対する温かい思いがあります。また、行事後に子どもたちが一回り成長するのも予測できるので、「もっと、もっと」となるのも分かるのですが、普段していること、子どもたちが一番好きなことを発表して、「ありのままを表現しても良いのにな」と私は思ってしまいます。

 というのも、そもそも「なぜ発表するのか」、「表現するのか」が大事だと思うからです。
 子どもたちが「表現する」ための方法は色々とあります。お話や絵、文字、歌、造形、踊り、劇など色々です。嬉しいとその場で跳びはねたり、広いところに行けば走りまわったり、道で拾った石や草、昆虫をくれたり、そうした感情表現もありますね。それらは、自分たちの中に嬉しいとか、楽しい、辛い、美しい、悲しい、感動した、相手に伝えたいとか、もしくはそれらが交じり合った複雑な強い思いがあって、自分の心の中だけで留めておきたくないから、様々な形で表すのではないでしょうか。歌手や芸術家はじめ大人も同じことだと思います。それらを多くの人に見てもらう、それが「発表会」なのです。

 諸説あるようですが、私が知る限り庶民の「発表会」は江戸時代ごろから広がったそうです。戦いがなくなり、平和な時代が訪れたこの頃の富裕層は、歌舞伎や楽器などの様々な習い事を始めたそうです。習い事を始めた人たちは、自分たちが培った技量を他者に見せるため、「発表会」を始めたとのことなのです。

 「発表会」ってそういうものですよね。誰かに強制されるわけでなく、自分のしてきたこと、自信がもてることを、他の人に「見てもらいたい」という気持ちが膨らんできたからするわけです。園の中でもよく「発表会」は行われています。年長さんが始めた劇ごっこ、最初は数人で初めて、セリフも役割もまちまちで、ただ楽しいからしていますが、段々と形になりブロックや椅子を置いて劇場っぽく環境も整えて、人数も増えて役割やセリフも何となく決まっていきます。そして、保育者や年少さん、年中さんが代わる代わるお客さんの役になって劇らしくなり、本格的に年少さんや年中さんに見せたいという思いが強くなると、実際に「いついつ来てください」と手紙を書いたり、チケットを渡して劇の「発表会」をしたりします。これが劇という表現方法の本来のあり方なのだと私は思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。

 

 出来栄のすごさや「こんなこともできるようになった」と成長を目で見て感じられるのも「発表会」の良いとことです。ですが、それが子どもの「表現」と繋がっていなければならないとも思います。現実には会場の問題や日取り、園文化なども関係して、そう簡単に園の「生活発表会」や「発表会」を変えられるものでもないですが、子どもの内にある感情や感性の表現を大人はただ受けとめ、子どもたちが再び表現したいという意欲に繋げていくこと、それが幼児期の大切な「表現」のあり方なのではないでしょうか。

 

 大人になると、言葉や態度で一時の感情を表現することはありますが、心の中にある強い思いを色々な手法を使って表現する機会は少ないと思います。私も実際にそれだけの時間と余裕がないのですが、幼い子どもたちだからこそ、心揺さぶられる体験から様々な感情や感性を養い、強い思いをたくさん表現してもらいたいと思います。そして、感情や感性が豊かだからこそ他の人を思えることができ、その結果、他の人から愛される人になれるのだと思うのです。たくさんの子どもが、多くの人から愛される人になってくれると良いですね。

松山東雲短期大学 保育科
講師      浅井 広