【思考力の芽生え】

 【思考力の芽生え】

 

 皆さんこんにちは。

 まだまだ暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。暑い中でも子どもたちは元気いっぱいに幼稚園に通っていることと存じます。2学期は運動会をはじめとして、様々な行事があり、子どもたちにとって楽しい学期であることでしょう。ちょっぴり緊張することもあると思いますが、そうした経験も子どもたちにとっては大事な経験ですね。ひとつひとつ小さな経験を重ねていって、卒園する時には、「幼稚園楽しかった、小学校も楽しみだな」という気持ちでいっぱいになってくれていると嬉しいです。

 

 さて、今回は、幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿から「思考力の芽生え」についてお話していきたいと思います。

 

 これまでも10の姿についてお話してきましたが、ヒトの育ちとその援助の仕方については、まだまだ明らかとなっていないことがたくさんあります。と言うよりも、分からないことの方が圧倒的に多いと言えるでしょう。ヒトの育ちは、家庭環境や社会環境によっても変化しますし、一人ひとりによっても異なります。ですので、こうしたら誰でも上手くいくという方法はないと言えます。そのような中でも、子どもたちがどうしたら思考するということができるようになるのか、また深く物事を考えられるようになるのかを、幼稚園の先生方や保育士さんたちは考えて子どもたちとかかわっているのです。保育という仕事はそうしたことを一つ一つ考えながら、かつ子どもたち一人ひとりに合わせながらしなければならないので本当に頭を使う仕事です。

 

 では、保育や先生方が「思考力の芽生え」についてどのように考えているのかを一部ご説明していきたいと思います。

 

 「思考力の芽生え」と言っても、ヒトは様々な場面において考えていますので、一概にこうした経験をすれば思考力が育まれると言うことは難しいでしょう。家族とかかわるとき、お友達とかかわるとき、絵を描くとき、なぞなぞに答えるとき、ぼーっとしているときですら何かしらを考えるものです。ですので、どうしたらヒトが考えるようになり始めるのかを解き明かすのは、とても難しいのです。

 

 そのような難題を保育ではどのように考えているのかといいますと、幼稚園教育要領解説には以下のように示されています。

 

 思考力の芽生え

 身近な事象に積極的に関わる中で、物の性質や仕組みなどを感じとったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる。また、友達の様々な考えに触れる中で、自分と異なる考えがあることに気付き、自ら判断したり、考え直したりするなど、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。

 

 幼稚園教育要領解説では、子どもの思考力が芽生えるための条件として、大きく分けて「事象とのかかわり」と「友達とのかかわり」をあげています。今回は主に「事象とのかかわり」の中でも「物とのかかわり」についてお伝えしていきたいと思います。

 

 ヒトの育ちは個々に異なりますが、ある程度似たような育ちをしていくことが分かっています。例えば、細かな指の使い方に注目してみましょう。年少さんの時、折り紙を折ってもなかなか上手くできないことがあります。指先が成長途中であるため、紙の端と紙の端を合わせて、きれいに折るという行為が難しいのです。そのため、どうしても歪んでしまいます。でも「綺麗に折った折り紙が欲しい」と思っていたりするので、大人に「折って」と頼むのです。もしくは、上手に折れなくても自分の折ったものに納得します。時には「できん」と諦めることもあるでしょう。これは指先の細かな動き、微細運動というものの成長に伴って現れる子どもの姿です。年少さんにこのような姿が見られるのは、ごくごく正常なことです。

 

 細かな動きができるようになるにつれ、子どもたちの遊びも変化していきます。年少さんと年長さんの制作の違いとして、ディテールがあげられます。細かさが違うのです。例えば、「〇〇レンジャーになりたい」といって、マントと剣を作るとしましょう。年長さんは、マントの色や剣の形、それぞれを彩る装飾や金物まで自分のイメージしたものに近いものを作ろうとします。一方、年少さんは新聞紙一枚のマントと新聞紙を丸めた太い剣でも満足できる場合があります。

 

 これが思考力と何が関係するのかということですね。

 

 ポイントは、「言葉」と「手先が器用さ」です。年長さんは年少さんに比べ、言葉を巧みにつかえます。これはイメージする力や記憶力と関係します。また、イメージする力と記憶力があわさって、過去の経験から先を予測する力も身につき始めるでしょう。

 手先の器用さは自分がイメージしたものに近いものを作り出すために必要です。

 

 この過程で思考が生じます。

 

 手先が器用でないうちは、自分が欲しいもの、作りたいものを作れないことが多いですが、でも「欲しい」のです。だからその解決策を考えます。

 言葉と手先の器用さが成長してくると、思い通りのものを自分で作ろうとすることができます。しかし、そう上手くはいきません。そのため、何度も何度も作ります。イメージをして、どの材料を使えば自分が欲しいものを作れるのかを考えます。でも上手くいかなかったり、壊れてしまったりします。だからその原因を考えます。上手くできても、どうしたらもっとカッコよくなるか、かわいらしくなるか、イメージしたものに近くなるのかを考えてまた作るのです。つまり作ると同時に熟考するわけです。その結果、思考力を育むことになります。

 

 また、園では子どもたちが求めるすべての材料を揃えることはできません。そのため、子どもたちはあるの物の中で、自分がイメージしたものに近いものを作り出そうとします。そうです。限られたもののから、自分が満足するものを考えて作り出さなければならないのです。剣が欲しければ、「ここは新聞紙で作って、、、でも1枚だと折れちゃうから3枚にして、新聞紙をとめるためにはセロテープがいるし、色を塗りたいんだけどポスカだと時間かかりそうだから絵の具がいいけど、絵の具だと欲しい色がないし、、、」という具合に考えなければならないのです。

 

 お友達と積み木やブロックをするときも同様です。自分一人だけが積み木やブロックを使いたいわけではありません。他の子どもたちも使いたいので、個数を分けなければなりません。つまり制限が生まれます。制限された中で考えて遊ぶのです。

 このような時、年少さんは各々限られた積み木等で遊ぶことが多いかもしれません。

 年長さんは、自分の持っている積み木等だけでは作りたいものが作れないので、お友達と一緒に遊ぶことを考えるでしょう。

 年中さんは、年少さん的な発想から年長さんの発想となる移行期と言えるかもしれません。

 これらもまた、各年齢に応じた思考を行っています。

 

 このように、「物とかかわる」時に子どもたちはたくさんのことを考えます。当然、その時にお友達とのかかわりも出てくるので、友達の考えにも触れます。友達の考えに触れ、段々と自分以外の子どもの考えを受け止め、必要に応じてその考えを自分の中に取り入れてもいきます。

 

 上述してきたように、保育の中では子どもたちが思考するという機会を作っています。先生方は意図的に制作の材料を選んだり、積み木等の個数を変えたりして、子どもがどうしたら主体的に思考するかを考えています。そして、答えを教えるのではなく、考える状況を作りだし、子どもたちが思考するのを見守っているのです。

 

 こう考えると、保育者ってすごい仕事ですね。

 

 

※廃材について

 多くの園では、様々な廃材を回収しています。皆さんも、空き箱や牛乳パック等、様々な廃材を園に持ってきてくださっていると思います。子どもたちはこれらを使用しながら、思い思いの制作をしています。上述させていただきましたが、子どもたちはたくさんの失敗を繰り返します(子どもから見れば失敗かもしれませんが、大人から見るとそれも成長するための成功です)。でも、色々な材料が無限にあるわけではないですし、お金がかかるものをいつも使うことはできません。そこで、廃材と言うものがとても効果を発揮します。自由に加工ができ、値段もかからず、何度でも失敗が許される、そんなアイテムが廃材なのです。

 廃材は使わなければゴミになりますが、使い方次第では遊び道具の領域を超えて、最高の教材となるのです。

 

 

 松山東雲短期大学 保育科

 講師      浅井 広