【自立心】

 【自立心】

 皆さん、こんにちは。
 6月の中旬というのに、まだ愛媛では梅雨入りもせずに温かい日が続いています。このまま夏になるんではないかとも錯覚を起こしそうですが、愛媛は雨が降りにくい代わりに節水や断水にもなりやすいので、ちょっとは雨が降ってくれると嬉しいのですが。そんなこんなで、穏やかな日常が続いております。

 さて、今回は幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿の中から、「自立心」について書いていきたいと思います。
 子どもなのに「自立心」?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。私もいろいろな意味で「自分自身が自立できているのか?」と言われると悩んでしまうくらいですので、子どもの「自立心」を育てると思うと、私も無理があるのではないかなと思います。
 
 ただ、ここで言う「自立心」は、子どもの心に、いつか自立をしていく気持ちが芽生えるための土壌づくりと捉えたらよいのかなと思います。
 上手く説明ができなくて申し訳ないのですが、例えば種から花を咲かせたいと思った時に、砂利道では花が咲きにくいですよね。花が咲くためには、まず土づくりをしなければなりません。それも丁寧に土づくりをすれば、強く綺麗な花が咲きます。「自立」という花を咲かせるためには豊かな土壌が必要で、その土壌に「自立心」という種が植わったならば、「自立」という心が強く、綺麗に咲くと考えられます。その土壌づくりをするのが、幼児期という時期であり、その場所が幼稚園や家庭という場所なのです。
 
 では、どのようにしたらよい土壌が作られると考えられているのでしょうか。幼稚園教育要領解説にはこのように書かれています。

 「自立心は、領域「人間関係」などで示されているように、幼稚園生活において、教師との信頼関係を基盤に自己を発揮し、身近な環境に主体的に関わり自分の力で様々な活動に取り組む中で育まれる。―中略―幼児は身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、信頼する教師に支えられながら、物事を最後まで行う体験を重ね、自分の力でやろうとする気持ちをもったり、やり遂げた満足感を味わったりするようになる。5歳児の後半には、遊びや生活の中で様々なことに挑戦し、失敗も繰り返す中で、自分でしなければならないことを自覚するようになる。教師や友達の力で借りたり励まされたりしながら、難しいことでも自分の力でやってみようとして考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げる体験を通して達成感を味わい自信を持って行動するようになる。」

 「自立心」を育むにあたり、「人間関係」だけが重要なわけではないことも書かれていますが、園においてやはり大切なのは保育者との信頼関係であることが示されています。
 「この先生が見守ってくれている」、「先生の近くなら安心できる」、「この先生はわかってくれている」、子どもたちがこのような気持ちを持てているならば、子どもたちは思い切って活動できますよね。思い切って活動してその活動が楽しかったら、失敗しても気になんかならないはずです。もちろん、保育者の慰めや励ましが必要な時もありますが、失敗を糧に「次こそは」と思うことでしょう。そして考えて、時間をかけてやり遂げられたら、達成感や満足感を得られ、「もっとやりたい」とか「次はこうしてみたい」という気持ち、「僕はできるんだ!」という気持ちを次第にもてるようになっていくことでしょう。いろいろな遊びや活動から得られた経験の蓄積が、自信へと変わり、「僕にもできる!」→「自分でやってみよう!」≒「自立心」の芽生えになるのではないでしょうか。その「僕にもできる!」や「やってみよう!」を幼児期では育んでいるのです。これが私なりに言うと、豊かな土壌ということになります。

 さて、皆さんは大人になってから満足感や達成感を味わえる経験をされていますでしょうか?

 習い事や仕事、趣味などで経験されている方もいるでしょうし、あまりそうした経験がないという方もいらっしゃると思います。

 何故でしょう?

 簡単ですよね。上記のような経験をするためには、少なくとも時間と自主性(選択性)と人的環境が必要なのです。
 まずは時間です。これが大きな問題かもしれません。上手くいかなくても許され、また試して、でも上手くいかなくて、、、を繰り返す時間が必要です。大人はなかなかこれが作れませんね。
 次に自主性(選択性)です。活動に自分で参加したいと思える興味や関心、魅力がある活動を自分で選択できないと続けられないですよね。だって、誰かにやらされていることや興味のないことを続けられないじゃないですか。活動の中に自分が楽しいと思えるところがあるから、続けられるんですよね。
 最後に人的環境です。一緒に楽しめる仲間、支えて励ましてくれる人、上手くいくためのアイデアをくれたり、上手にできた時に認めてくれる人も必要ですよね。こうした良い環境でないと、満足感や達成感を味わう、言い換えれば成功体験はなかなか得られないものです。
 こうした条件は大人になってからは整えることが大変です。でも、幼稚園ではその環境が整っているので、その環境を使って子ども一人ひとりが、それぞれのスピードで土壌を耕しているのです。幼児期の子どもにとっての仕事は、たくさん遊んで、こうした経験を積んでいくことですね。

 このように考えると、大人があまり子どもの遊びや活動に口出ししたり、手を出すのは良くなぁと思われるわけです。だって、大人はすぐに答えを教えようとしてしまうので、子どもが試行錯誤して考える時間を奪ってしまっていると思うからです。失敗するから悔しいんです。自分でやるから楽しいんです。答えをなぞれば100点が取れる試験をしたって悔しくも、楽しくもなく、意味がないと思いませんか?誰だってわかっているのに、子どもが相手だとついつい100点を取れるようお節介をやいてしまうんですね。

 保育者の方と話していても、よく「私、待てなくてー」ということを耳にします。もともと保育者の方々は、世話好きだったりもするので、手を出してはいけないと分かっていても、ついつい手を出してしまうそうなのです。
 子どもの自立心を育むためにも、耐えて見守ることは大人の務めなのでしょうね。

 

 松山東雲短期大学 保育科
 講師      浅井 広