[幼児期の終わりまでに育ってほしい姿]

 [幼児期の終わりまでに育ってほしい姿]

 皆さん、こんにちは。松山東雲短期大学保育科の浅井広です。このコメントを書かせいただいて3年目になりました。これまで幼稚園のことや幼児教育、子育て等について色々と書かせていただきましたが、今年はもっと幼稚園での教育について知っていただきたいという思いから、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」について1年を通じてお伝えしていきたいと思います。これも色々な解釈ができそうなので、十分にお伝えできるか分からないのですが、私なりにお伝えできればと思っていますので、よろしくお願い致します。

 さて、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」と言われてもわけが分からないと思いますので、今回は「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」について説明していきたいと思います。

 幼稚園や保育園、認定こども園には、それぞれに幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領という教育の方針が示された教科書のようなものがあることを以前お伝えしました。そして、それらは10年毎に見直されて改定されていきます。2018年にこの三つの法令(幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領)が同時に、しかも共通性をもって改訂されました。加えて、小学校や中学校の3法令にあたる「学習指導要領」も同時に関連性をもたせた形で改定されました。

 これによって、幼稚園、保育園、認定こども園から小学校、中学校まで一貫性を持って教育を進めていくことがより明確になりました。要は、幼児教育(幼稚園や保育園、認定こども園)と小学校、小学校と中学校の接続をスムーズに行い、これらの教育に携わる者が同じ方向を向いて教育していくことが示されたわけです。幼稚園教育要領等や学習指導要領の文言に共通性を持たせることで、幼児教育、小学校教育、中学校教育がそれぞれバラバラに行われるわけでなく、0歳から16歳までの教育が一貫したものであることを国の方針として示したのですね。

 その中で、幼児教育と小学校の接続を考えて、幼児期修了時までに育ってほしい具体的な姿が10個の項目にまとめられました。その10項目が、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として呼ばれています。略して「10の姿」とも呼んでいます。私なりに言うなら、幼稚園や保育園、認定こども園を卒園する時の子どもたちの姿(様子)と小学校がスタートする時に予想される子どもたちの姿(様子)を一緒にしたということでしょう。そうすることにより、文言として、幼児期のゴールと小学校のスタートが同じであることが示され、保育者も小学校教諭もその意識をもって教育しなさいと言われているということなのですね。
 
 そして、以下がその10項目になります。各項目の解説は次回以降にしますね。
・健康な心と体
・自立心
・協同性
・道徳性・規範意識の芽生え
・社会生活との関わり
・思考力の芽生え
・自然との関わり・生命尊重
・数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
・言葉による伝え合い
・豊かな感性と表現
 ただし、この「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を理解する上で注意しなければならないことがあります。

〇到達目標ではないということ
 人間の成長には個人差があって当然です。我々大人だって一人ひとりが異なります。そのため、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は必ず到達しなければならない目標ではないのです。言い換えれば、その姿が幼児期の終わりまでに見られなくてもかまわないのです。また、子どもたちはその時の気持ちによっても行動に変化が起こることがありますので、ある時は興味があっても、ある時は興味がないなんてことはよくありますね。それでいいのです。「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」も「できる-できない」、「〇か×か」で判断するものではないのです。

〇遊びや生活を通して総合的に育まれていくもの
 項目があるとついつい個々の項目で教え込みたくなるものですよね。ただ、保育においては異なります。遊びや生活を通じて、この10項目が複雑に絡み合いながら総合的に育まれていくと考えられていて、項目ごとに育つものとは考えられていないのです。「数量や図形、標識や文字」と書かれると、「足し算するの?」とか「平仮名を教えるの?」と思われますが、そうしたことをしなくとも、子どもたちは必要に迫られて遊びや生活の中で、自分たちで足し算をしたり、平仮名を書いてみたりするものです。もちろん、そこには保育者の援助も必要になりますが、保育では、そうした関心や感覚といった土台を見ているのです。そうした土台を基に、足し算や平仮名の理論や知識は小学校以上で教育されていきます。土台ができていない家は、上がどんなに豪華でも崩れやすかったり、歪んでしまうのと似ているかもしれませんね。

〇幼児期の終わりまでに育ってほしい姿は、これまでの子どもたちに見られてきた姿
 項目が示されると、それに向かって特別な何かをしていかなければならないのかと思われるかもしれませんが、この姿はこれまでの子どもたちに見られてきた姿を分類して10個の項目にしたものです。そのため、特別な姿ではありません。「年長さんの後半になると、こうした姿が見られるようになるよ」という様子を10個にまとめただけなのです。

 このように、今の幼児教育においては、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を念頭に置きながらも、これまで同様、子どもたちの遊びや生活を大切に保育が行われています。ただ、残念なことにそうではない園もあるのが現状です。「遊びを中心とした保育」は保育の方法で言えば、最も難しい保育方法だと私は思います。そうしたこともあって、「遊びを大切にしています」と謳いながらも、現実にはそうしていない園もたくさんあります。できなかったことができるようになることが成長と捉える人もいますし、遊びを中心とした保育はいい加減にすれば子どもを放任(放置)することになりかねないので、むしろ、現代では何かしらを取り入れている園が主流でしょう。こうした日本の保育現場に、国としてももっと考えて保育をしなさいと警鐘を鳴らしているのだとも思います。そして、保育者養成校もちゃんと保育者を養成しなさいと。

 また、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が示されたことにより、「なぜ10項目なんだ?他にもあるだろう!」とか、「年長の後半あたりで見られる姿ばかり示されているが、それじゃあ、その姿に向かって年少や年中はどのような保育をすればいいんだ?」といった声も上がっています。色々な人がいらっしゃるので、偉い人達も大変ですね。

 保育は「人を育てる」という営みなので、難しいことに間違いありません。それこそ、十人十色の子どもたちを相手にするわけですから、容易なことではないのです。でも、保育は人として生きていくための基礎を培う大事な営み、そして時期なのです。だからこそ、園や保育者だけでなく、ご家族、地域、他の子どもたち等といった、様々な人が必要であり、皆で行うべきものなのです。
 本年度は、そうしたことをお伝えしていきたいと思います。

松山東雲短期大学 保育科
講師      浅井 広