【教育こそ人間の特徴】

 【教育こそ人間の特徴】

 

 皆さんこんにちは。運動の秋、芸術の秋、食欲の秋と言われるよい季節となってまいりました。いつもご覧いただきありがとうございます。

 この間、愛隣幼稚園のDVDを拝見しました。園長先生が作り始めて、かれこれ10年くらいになりますでしょうか?あのようなDVDを作られたことのある方はわかると思いますが、一度作り始めるとものすごくこだわってしまうものなんですよね。私も大学の卒業生向けに作ることがあったのですが、一部を修正したら、他のところがずれて、そこも直したらこっちもってなって、、、とけっこう時間と労力を使うものです。よろしければ、一度や二度は見てあげてください。

 ちなみにですが、あのようなDVDを作っている園は全国的に稀だと思います。最近、ドキュメンテーションとかポートフォリオと言って、子どもの成長記録を視覚的に伝える方法が出てきましたが、普及の度合いで言えばまだまだです。「仕事がありすぎて、そんなにできないよー」っていうのが実際の現場の声でしょう。ホームページに写真を載せたりする園はありますが、その程度です。当たり前にされていることが、意外と珍しかったりするものですね。

 

 さて今回は、「教育」という活動こそが人間としての特徴的な活動なのです、ということを話していきたいと思います。もしかしたら、前にもお話ししたかもしれませんが、改めてということで。

 

 まずは、生物としてのヒトの話をしますね。我々ヒトの祖先も含め生物は、もともとは海の生き物であったと言われています(キリスト教精神とはかけ離れていますがご勘弁を)。そこから海に残ったもの、陸にあがったもの、空に住み家を求めたものに分かれ、進化していきました。その中で、陸にあがった哺乳類は進化の過程で4つの足を手に入れました。犬や馬などはどれも似たような4つの足をもっていますよね。餌を求めたり、敵から逃げるために早く、長く、遠くにも移動できる足が必要だったわけです。それから、樹の上で生活するものも出てきました。彼らの4つの足はさらに変化し、4つの手となりました。チンパンジーは我々が一般的に足と呼んでいる部分をよく見てみると、足の指が我々の手によく似た形をしています。要は、樹にぶら下がったり、枝をつたったりするのには、ものをつかめる構造の方が都合がよかったのです。ですので、私たちのような足の指の形をしているよりも、手の形の方が生きていきやすかったのです。それは、そうですよね。足で枝を掴むより、手で掴んだ方がよほど掴みやすいわけですから、樹の上で生活するには足4つよりも手4つの方が合理的ですね。

 では、私たちヒトはどうなのかというと、私たちは樹の上での生活をやめ、陸へと戻ったものの子孫なのです。チンパンジーとヒトの遺伝子の構造が98%以上一致することからしても、チンパンジーと我々ヒトの祖先が同じであることは間違いないでしょう。ゴリラやボノボもそうです。しかし、何らかの理由でチンパンジーやゴリラといった共通の祖先とは別れ、陸上でヒトとして生きることを選びました。そのため、私たちは再び足が必要となり、2本の足と2本の手をもつ生き物となったのです。補足で言いますと、2本の足と2本の手があるのは二足歩行になったからだというのは間違いです。もしそうであれば、私たちは4つの足をもった二足歩行の生き物になるそうです。手があるのは、樹の上で生活していた証なんですって。

 

 そうして、2つの足と2つの手を手に入れた我々ヒトですが、この時点では地球上最弱の生き物だったようです。そりゃそうですよね、素手で熊や狼の祖先とか、肉食の昆虫、爬虫類と闘わなければならないわけですから、完敗だったことでしょう。他の肉食動物からすれば爪も牙もなければ腕力もないですし、足も遅い、かっこうの餌だったのではないでしょうか。だから遠くまで見えるように二足になったのではないかと言われていたりもするみたいですね。ミーアキャット的な発想です。それから、また話は飛びますが、チンパンジーやゴリラの体は筋骨隆々で、例えば金属と金属をとめたボルトなどをはずすこともできちゃうことが知られています。逆に人間の体は、投てき、物を投げるということに向いている構造らしいです。博物館に行くとマンモスとヒトの祖先が戦っているジオラマとかが置いてありますが、確かに槍を投げていたりしますよね。体が弱い分、遠くから闘う力を身に着けたのではないでしょうか。

 

 話は戻ります。ヒトは陸上に戻っていき、そして二足歩行という特殊な力を身に着けます。ヒトの最大の進化は二足歩行と火を使うようになったことだ、と昔教わった気がしますが、確かに二足歩行と火を使うということはヒトに大きな変化を与えたようです。ここから地上最弱のヒトの逆襲が始まっていくわけですねー。ただ、二足歩行というのは、実は不都合なこともたくさんあったそうなんです。

 

 まず第一に、二足歩行は4足歩行に比べてエネルギー消費が激しいらしいんです。なので、より多くの食料が必要になったんですって。だから、火を使えるようになって、今まで食べられなかったものも焼いて食べられるようになったのは画期的だったそうです。ただ一方で、二足歩行になって脳が頭の上で安定することによって、脳はすごく成長したそうです。確かに、チンパンジーやゴリラも二語文くらいであれば、手話によってヒトと話すことができますし、「ジュース、ちょうだい」と要求することもできますが、人間と同じレベルというわけにはいきません。チンパンジーにもチンパンジー同士の言葉があって、「敵が来たぞー」と知らせることはできます。ただ、人間は「東から、3メートルくらいのマンモスが1匹来たぞ」とより詳細に伝えることができます。これは我々ヒト(ホモサピエンス)が身に着けた能力です。そのため、単に逃げる、闘うだけでなく、5人で闘う、10人で闘う、近場に逃げる、遠くに逃げる等の複雑な選択肢を作ることができたのでしょう。それがまた、ヒトの知能を発達させたんでしょうね。言葉ってすごい能力なんです。

 ただ、実はチンパンジーはヒト以上の知能を発揮することもできます。それは瞬間記憶の能力です。ちょっと私の記憶が曖昧なのですが、1~15くらいまでの数字を10×5マスだったかな?それくらいのマス目に適当に数字を入れて、その映像を1秒ほど見せます。そのあと、1~15までの数を順番に、マス目のどこにあったかを指さししていくというテストをします。京都大学の先生が実験しているんですが、京大生含め人間で正確にできた人は今までいなかったそうです。しかし、チンパンジーは集中していれば、何問も解答できるんです。しかも、考えたり、戸惑ったりすることなく、パッパッと答えていきます。でもたまに間違えます。私もその映像を見ましたが、普通の人ではまず無理です。私が見た映像とは少し違いますがYouTubeに似ている映像があったので、気になる方はYouTube「人間より記憶力のいいチンパンジー」で調べてみてください。

 

 話は戻って、第二にヒトは出産を早くしないといけなくなりました。4足歩行であればおなかの中で赤ちゃんが育っていっても、お母さんのおなかは地面に向かって伸びていくので、大変は大変ですが、ゆっくりと子どもを胎内で育てることができました。しかし、二足歩行になったことにより、子どもの重さにお母さんが耐えられなくなったので、十分に赤ちゃんが育たないままでも、お母さんは出産しないといけなくなったようです。これを生理的早産と呼んでいますが、ヒトは他の哺乳類に比べ1年早く子どもを産むといわれています。皆さんのおなかに、約2年間も赤ちゃんがいると想像してみてください。私は男性なのでわからないですが、きっと想像を超えるようなことになるでしょう。

 早く生むことになったのは良いのですが、その分、しなければならないこともありました。それが教育です。「他の動物も子育てしていますよ?」と思われる方もいるかもしれませんね。その通りで、ヒト以外の動物も子育てをします。しかし、教育というよりも、どちらかというと保護とか生命の保持に当たるでしょう。つまり、子どもが死なないために餌を与えたり、外敵から守るわけです。「でも、鳥も飛び方を教えるし、チンパンジーも道具の使い方を教えるじゃない?」と言われるかもしれません。それも、その通りです。しかし、鳥やチンパンジーの子育ては、基本的には子どもの模倣学習を促すものです。模倣学習というのは、いわゆる「見て学べ」、「技術は盗め」という教わり方です。教わる側が真似することによって知識や技術を学ぶ手法で、我々ヒトも昔の大工さんとか靴職人さんとか、伝統工芸の職人さんとかで、徒弟(とてい)制度として専門的な技術の習得を主な目的として用いられてきました。チンパンジーも木の実を石で割って食べますが、どのような石が良いのか、土台のどこに置けば安定するかを教えることはしません。「こうやるんだよ」と子どもに手取り足取り教えるのはヒトくらいなのです。

 

 ただし、私たちは知識や技術だけを教えるわけではありません。むしろ、知識や技術よりもたくさんのことを子どもたちに学んでほしいと思っています。思いやりとか優しさ、勇気、責任感、意欲、柔軟さ、表現力、行動力、自制心、自立心、、、あげたらきりがありませんね。でもこれら一つ一つは、私たちヒトが生きていく中で必要なものになっていきますし、意図的に教えようとしてもなかなか教えられるものではありません。それでも小さなことを積み重ねながら、子どもの意欲を原動力に、子ども一人ひとりが持っている個性を存分に生かし、膨らませるような環境を整え、子ども一人ひとりが大きく、大きくなっていくことを支えていきます。そして、築いてきた文化を継承していきます。これこそ、教育なのです。このような教育は、ヒト以外の動物には今のところできないのです。

 

 ヒトは他の哺乳類よりも早く生まれるとされます。加えて、進化の過程でより複雑で高度な社会を形成してきました。だからこそ、教育はヒトの特徴として欠かすことのできない要因になりました。しかしながら一方で、子どもに早くから社会に適応することを求め、将来、社会の中で優位に立つことが幸せであると認識した大人たちによって、子どもの発達に合わない形で教育が行われてきたことも事実でしょう。悪意はなかったと思うんですけどね。でも、我々ヒトにしかできない「教育」を、子どもに沿った形で丁寧に行うことができたのなら、そしてその子どもたちもまた同じように教育をしてくれたのなら、ヒトはヒトとして、また一歩前進していけるのではないかと思うのです。

 

 

松山東雲短期 保育科

講師    浅井 広