【子どもたちが言葉を身に付けるための保育者の援助】 

 【子どもたちが言葉を身に付けるための保育者の援助】 
 
 皆さん、こんにちは。
暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。夏休みもあり、子どもたちは普段の生活とは違った日常を楽しんでいることと思います。
 私が勤務している大学にも附属幼稚園がありますが、子どもたちはこの暑い中でも園や大学に遊びに来て、汗びっしょりになりながら虫取りや水遊び等をしていました。大人はすぐにばててしまうのに、子どもたちはすごいです。子どもたちの遊びたいという意欲と、その意欲を引き出す遊びの魅力には驚かされることばかりです。
話しは全く変わりますが、夏休みになると毎年のように「大学の先生も夏休みはあるんですか?」と尋ねられます。大学教員は学生さんと共に長~い夏休みを過ごしていると思われているようです。もちろん授業はありませんが、夏休みは夏休みで私たちも色々と仕事があります。「教員免許更新講習」や「保育士資格・幼稚園免許のための特例講座」、「子育て支援研修」といった保育者の先生や地域の方々に講習をはじめ、実習をしている学生さんの様子を見に行ったり、学会に参加したり、たまった書類仕事を済ませたりと意外と忙しく過ごしています。あと研究もこのような時期でないとできないです。
 
 そのような中で、最近、保育者の方にお話する機会があり、保育者の方からも色々と教えていただいたことがありましたので、今回はそのことについてお話したいと思います。
その内容は「言葉」についてです。下記の子どもの発達は、あくまでもおおよその子どもの姿ですので、あまり難しく我が子と比較する必要はありません。
 
 一般的におおむね3歳の子どもは、話し言葉の基礎ができ、盛んに質問するなどの知的好奇心や関心が高まると言われています。子どもが理解する語彙力も急激に増加し、日常生活での言葉のやり取りができるようになってきます。また、言葉の獲得を通し、「なぜ?」「どうして?」といった質問が盛んになりますが、このやり取りを通し、表現がますます豊かになっていきます。「なぜ?」「どうして?」という知的好奇心に大人が答えることによって、難しいことでも子どもたちに答えを見つけ、納得しようとしたりするものです。
 
 おおむね4歳では、仲間と遊ぶことの楽しさや喜びを感じ始めますが、同時に競争心や自己主張も育まれ、けんかやトラブルが多くなります。言葉で自己を主張することと、相手の気持ちを言葉や表情などで理解し、協調して生活していくことを学び始めていく時期になります。言葉の発達とともに、脳機能も発達し、記憶力も高まると言われています。加えて、4歳頃は自ら話そうとしますが、「んーとね」「あのね、あのね」と考えながら話したりします。これは、4歳児なりに順序立てて物事を考えて話そうとしているからだと考えられます。一生懸命考えているのです。だから大人は4歳児の言葉を待ってあげることが大切になってきます。そして、いろいろと簡単に質問してあげると良いかもしれません。「んーとね」とか「あのね」とよく考えて話しても、まだまだ十分に自分の思いを伝えられていないこともあるからです。「んーとね、えっとね、今日ね、幼稚園で水遊びしたよ」と話してくれたとしたら、「どんな水遊びをしたの?」とか「誰と一緒に遊んだの?」と具体的に聞いてあげると、自分なりにまた考えて、相手に伝える話し方を学んでいけることでしょう。
 
 おおむね5歳になると遊びの経験が増え、言葉が上手になると、お友だちと言葉を使ってイメージを共有することができるようにもなります。イメージが合わないこともありますが、言葉を使ってお友だちと調整できるようになり始めるので、けんかやトラブルを自分たちなりに回避する力も段々と身に付けていきます。
 また、生活経験が豊かになり、先を見通せるようにもなるので、自分なりに考える思考力も芽生えます。考えて、分かりやすく表現し、相手の話を聞く力が育つことで、許す、認めるという社会性も育まれていきます。
 
 おおむね6歳では思考力や認識力も高まり、文字や数字などへの興味、関心も深まっていきます。お手紙を書いて相手に気持ちを伝える、手紙を書いてくる約束をする、数字の大小がわかる、小さい数ならば数えることができるなどの姿が見られるでしょう。また、言葉を使って自分の主張を譲ったり、調整しながら合意を得ていくといった経験もするようになっていきます。
 
 子どもの発達は個々によって違いますので、上記の内容に当てはまっていないからといってナーバスになる必要はそれほどありません。また、言葉はコミュニケーションの方法なので、言葉を身に付けていく過程ではお友だち関係や大人との関係も大切です。
 しかし、最も大事なことは子どもたち自身に、「話したい」経験があり、「話したい」相手がいて、「話したい」と本人が思うことではないでしょうか。だから保育でも最も大切にされていることは「文字を書けるようになること」や「言葉の使い方を知ること」ではありません。文字や言葉に興味や関心をもち、自分自身で使ってみたいと思う気持ちを育てることです。
 
 では、子どもたちが文字に興味をもちはじめるのはどんなときでしょうか。子どもたちは自分の好きなキャラクターやテレビアニメのタイトルなどはすぐに覚えてしまいます。また、文字が書ける子がいると、その子の真似をして字を書こうとしたりします。
 保育者はそうした色々なチャンスで、子どもたちが言葉を身に付けていくことを援助するとともに、子どもたちがそのようなチャンスを迎えられるよう、いろいろなアクションをしています。その様子を見てみましょう。
  
〇園内に段ボールのポストを設置し、子どもたちが手紙を書いて出せるようにした。年長さんが郵便屋さんになり、手紙を配るのだが、初めは年長だけで行っていた遊びも次第に他のクラスにも広がり、他のクラスの子どもも「手紙を出したい!」と言い始めたので、自由に手紙を出せるようにした。文字の分からない子は、保育者に聞いて手紙を出している。また、ひらがなのスタンプを用意することで、自分で書けなくてもスタンプを使って「書きたい」と思う子どもが増えた。特に正月明けの郵便遊びは盛り上がりを見せ、年賀状をもらった経験から、家族やお友達に手紙を書いて楽しんでいる。
 
〇繰り返し同じ絵本を「読んで」とお願いしてくる子がいます。何度も何度も同じ絵本を読んで楽しそうにしていました。ある時、その子が私の真似をして、読み聞かせのようにして友達相手に絵本を読んで聞かせていました。絵を見ながら、私が話していた絵本の内容も覚えていて、文字はまだ読めなくても、その子なりに言葉にして読み聞かせをすることを楽しんでいました。
 
〇文字などの関心が強く、ほとんどの子が文字を読めるようになった頃から、友達のものを配ってもらうお手伝いをお願いするようにしている。水筒やお便り帳、帽子などを配るのですが、仲の良いお友達の名前と文字が繋がり、「同じ【お】だね」と楽しんだりしている姿も見られます。
 
〇かるたゲームで楽しむ姿が見られる。字の読める子はルールを守って遊んでいるが、年少組はまだ読めない子が多いので、自分の名前にある文字を探したり、絵カードを併用して文字遊びという形で興味を持てるようにしている。
 子どもたちが言葉に興味を持つために、保育者の方々は、様々な援助をしています。特に、郵便屋さんごっこの遊びを通して子どもたちは文字に興味を持つようです。お手紙をもらうと嬉しく、自分も書きたいと思うのでしょうね。そのような時に大人は文字を伝えていくと、子どもたちは自然な形で文字を覚えられることでしょう。必要にせまられて、文字を使いたくなるともいえるかもしれません。使いたい時は、子どもたちは喜んで文字や言葉を学んでいきます。
要するに、楽しんで遊びをしていく中で、言葉や文字だけでなく、様々なことを学んでいくのが幼児期における子どもの学び方なのです。そのような学び方を大切にしていきたいですね。
 
 
松山東雲短期大学 保育科
講師      浅井 広