【言葉を獲得する】

 【言葉を獲得する】
 

 皆さんこんにちは。
 暑い日が続くと思ったら、未曽有の豪雨や未だかつて見られなかった台風が来たりと、地球環境の変化を感じざるを得ない状況が続いています。この先、どうなっていくか心配でなりません。
 今回の西日本豪雨で私が住んでいる愛媛県も甚大な被害を受けました。川が氾濫し、土砂崩れが起こり、多くの方々の生活が一変してしまいました。そして、現在も復旧が進められています。

 さて、こうした情報はいまやテレビやインターネット、ラジオや新聞などのツールを使って知ることができます。これらは言葉を使えるからこそ情報のやりとりができるわけです。もちろん、テクノロジーの進化で映像や写真と一緒に情報のやりとりが行われますが、映像や写真だけではいつ、どこで、どのようにという細かな情報を得ることは難しくなります。やはり言葉がいるのです。

 言葉は、側いる相手だけでなく、側にいない相手にも思いを伝えられ、生きていく上で必要な力と言えるでしょう。そうした言葉の獲得は、どのようにして身に付けられるようになっていくのでしょうか。

 
 人の言葉の獲得は乳児期にまで遡ります。赤ちゃんは生後3か月頃から、周囲のものをじっと見たり、音や大人の声がする方を見るようになります。そして、最初は単調な泣き方で泣きますが、やがて抑揚のある感情を訴える泣き方へ変化していきます。お母さんが赤ちゃんの泣き声で、お腹がすいているのか、おむつを交換してほしいのか、寂しいのかわかるのは、赤ちゃんの泣き声が社会性をもってきたからと言えます。つまり、言葉にはなっていませんが、相手に意思を伝えることができるようになったということです。その後、大人とのやり取りの中で赤ちゃんの言葉は喃語(なんご)(あーっ、あーっ・うーっ、うーっ)へと変化をしていきます。大人の言葉、口の動きを真似して発声しようとした結果です。
 

 おおむね6か月から自分の意思や欲求を喃語や身振り等で伝えようします。こうした様子に、大人が子どもの気持ちを汲み取り、応答的にかかわることで大人の声ややり取りを心地良いものだと感じるようになり、そして、応答的なかかわりを続ける中で簡単な言葉の意味を理解し、一語文(マンマ、ブーブー)を使えるようになり始めます。

 一方で、この時期(6か月~1歳3か月頃)には「いいもの探し」を始めます。「なにかいいものないかなぁ」という子どもの心の声が、まなざしとして表れるのです。散歩に出かければ、虫や花、猫など、一つ一つに感動し人差し指や足を使って指差しをします。ハイハイや歩くことができるようになると、広範囲にわたっていいものを探すので、大人はこれまで以上に部屋を整理しないといけなくなるので大変になります。

 

 おおむね生後10か月頃から見られるその「指差し」に、「ありさんがたくさんいるね」、「黄色いきれいなひまわりが咲いてるね」、「かわいい猫だね」と大人は無意識に共感の言葉をかけます。この指差しは「ことばの前のことば」とも呼ばれていて、感動や要求を母親や父親に伝えるための手段となります。そして、1歳6か月を過ぎると息の調整もできるようにあり、本物の言葉にとして発声されていきます。言葉の土台を育む時期には、子どもが人や物、自然などからたくさん「いいもの」を発見し、その発見に大人が共感的、応答的に応えていくことが大切となるのです。

 おおむね1歳3か月から2歳未満の子どもは、大人に呼びかけたり、拒否を表す片言や一語文を使い始めます。言葉で言い表せないことは、指差しや身振りなどでも示し、気持ちを伝えようともします。ここでも、大人が子どもの一語文や指さすものに応答していくことによって、子どもは二語文(マンマほしいなど)を獲得していきます。

 おおむね2歳になると語彙力が著しく増加します。一般的には子どもの脳機能が発達し、大人とのかかわりの中で使用される言葉を記憶する力が育つからと考えられています。また、2歳の終わり頃には、自分のしたいこと、して欲しいことを言葉で表出するようにもなります。他の子どもとのかかわり、運動機能の発達も伴って、見たて遊び「・・・のつもり」や簡単なごっこ遊びも行います。その中で、言葉を使うこと、伝わることの喜びや嬉しさ、言葉を交わすことの楽しみを感じるとともに、大人や友達とのかかわり、遊びの中で「かして」や「ちょうだい」といった要求語、「どうぞ」などの人と一緒に暮らしていく中で必要となる言葉に気づいていきます。

 

 これは1歳半頃からますます強くなる物への憧れが一つの要因となっていると考えられます。いわゆる自我の発達です。「自分の!」という自我が強くなることが、他者ではない自分の世界を強めていくエネルギーとなり、そうして自我が発達していくとともに、2歳半頃になると「大きいー小さい」「多いー少ない」、「長いー短い」、「高いー低い」などの対比の概念を言葉で代弁できるようになっていきます。そうすると、他者と比べ「自分の方が少ない」、「自分の方が小さい」ことへの不満足感を「もっと、もっと」や「ちょうだい」などの要求する言葉で表現することでしょう。子どもは欲張りなのです。しかし、これらは物への憧れが「自分の」という自我と結びつき、対比の概念の獲得に伴って言葉となる、子どもの喜ばしい育ちと言えます。

 こうした育ちを支えるのは、子どもに言葉を使いたいという気持ちが育ち、安心して話を聞いてもらえる相手がいること、そして話したいことが相手に伝わったという自信や満足感があるからだと思えます。言葉が使えるようになれば、自然と話すようになるわけではなく、言葉を獲得していく過程にも、乳児期からのいくつかの条件を満たしていく必要性があるのです。それは3歳児以降になっても同じです。3歳以降は、言葉をある程度使えるようになりますが、ある程度です。だから、ゆっくりと子どもの話を聞いてあげてほしいと思います。3歳の子どもは、自分の知らないこと、自分の言葉では伝えられないことを知っている言葉や態度で示します。4歳児は「えーっとね」とか、「あのね、あのね」と考えながら話をします。大人からすれば「早くしてよ」と思う時もあります。でもそうした時、子どもたちは言葉を組み立てて、相手に思いを伝えようとしています。だからこそ大人は急かさずに、ゆっくりと対話をして欲しいのです。そうしてゆっくりとかかわっていくことで、やがて子どもたちは自分自身の気持ちを相手に伝えるための言葉を獲得していくのです。

 話せるようになってからもそうですが、上手に話せない時期も大切にして欲しいと思います。
 
松山東雲短期大学 保育科
講師      浅井 広