【お別れの涙は大好きの証拠】

 『お別れの涙は大好きの証拠』
 
 皆さんこんにちは。今年も一年間ホームページを書かせていただく事になりました。保育や子育てについて、これからも少しずつご紹介させていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
 
 さて、4月は入園や進級により、どの保育現場も慌ただしい時期となります。初めて幼稚園に通う子どもたちにとっては、大好きなご家族と一時的にでも離されることで不安を抱いたり、悲しい思いをしたことでしょう。進級した子どもたちにとっては、新しい先生や新しいお友だちと共に生活をしていくことになり、期待と不安が入り混じっている状況ではないでしょうか。そのため、園では色々な子どもたちの思いがぶつかり合ったり、悲しい思いが涙となって表れていたり、新しいお友だちができた喜びを表現したりと騒がしくも賑やかな時期となっています。
 ご家族の方も、特に初めて我が子と離れることになった方にとっては、子どもの成長が嬉しくも、どこか寂しい、そのような思いを抱かれているのではないでしょうか?
 
 私が所属している大学にも、この春から保育園に通うことになった子どもさんがいる教職員が何名かいます。4月の中旬頃でしたでしょうか、ある職員が「今日、保育園に預ける時に初めて(子どもが)泣かずに別れることができました」と教えてくれました。「園に慣れてきたんだなと嬉しく思う気持ちと、自分から離れても大丈夫になってしまった寂しさと複雑ですね」とお話してくれました。
 きっと、愛隣幼稚園に我が子を預けていらっしゃるご家族の方も、後ろ髪を引かれる思いでお子さんを見送っていることと思います。
 
 このことを私たちは母子分離と呼んでいます。子どもたちにとっては、信頼できる保護者との1対1の密な関係から、社会生活へと移行するための大切な第一歩であります。もちろん、ご家族と離れた入園間もない子どもたちは不安でいっぱいですので、まずは保育者との1対1の安定した信頼関係を築いていくことになります。その後、保育者との信頼関係を基に、時間をかけながらお友だちとの人間関係を築いていくことになるわけです。ですので、4月や5月はご家族と離れ離れになった気持ちを表現しつつも、それを優しく受け止めてくれる保育者と関係性を築き始める時期と言えるのです。
 「うちの子、幼稚園でもずっと泣いてるみたいだけど大丈夫かしら?」と感じられている方もいるかもしれませんが、保育者との信頼関係が生まれ、園で遊ぶことの楽しさに子どもたちは次第に気付いていきますので、いずれこうした姿も少なくなっていくことでしょう。逆に言えば、ご家族の方が大好きだから力いっぱい泣くわけですね。それは、ご家族の方がお子さんを大切にされてきた証拠とも言えるのではないでしょうか。お子さんと離れる際に、お子さんが泣いて別れを惜しんでくれる時期はあっという間に終わってしまうかもしれません。この時期を大切に、喜ばしいことと受け止められたらよいのではないでしょうか。
 
 そのように言うと、「うちの子、全然泣かないんだけど?」という方もいるかもしれませんし、4、5歳児のお子さんをおもちの方は「最近は私と離れても泣きもしないどころか、離れ際に振り向きもしないわね」なんて感じられている方もいるかもしれません。
 でも、子どもたちはご家族の方が大好きです。保育者のジレンマと言いますか、あるあるをご紹介しましょう。
 
 「先生大好き~」などと保育者とたわむれていたところに「○○ちゃん、お迎え来たよー」とご家族が登場すると、保育者のことなど忘れたかのように満面の笑みをうかべ、一目散にご家族のところへと向かっていく姿がよくあるそうです。子どもたちには悪気があるわけでもないですし、誰が悪いというわけでもないのですが、そういうシーンに遭遇すると「ご家族には決してかなわないなぁ」と保育者は思うようです。保育者にとっては、少し寂しくも、家族に愛され、可愛がられているその子のことを嬉しく思うシーンなのでしょう。どれだけ保育者を信頼し、愛情を持っていたとしても、やっぱり家族が一番なのですね。
 
 子どもたちは、色々な方法で他者に対する思いを表現しています。言葉が拙かったり、表現方法が乏しい分、そうした行動で表すことが多いのかもしれません。そうした思いを私たち大人がどう受けとめるか、それが大切になってくると思うのです。子どもたちの言葉や表情、態度など、色々な表現を受け止めてあげたいですね。
 
松山東雲短期大学 保育科
講師      浅井 広