【悪く見える子どもの育ち】

 【悪く見える子どもの育ち】
 
 子どもが成長するにつれ、大人からすると「あれっ?」「どうして?」「そんなこと教えた覚えないのに」と思ってしまうような、一見すると悪い育ち方をしているように見えてしまう場面があるかと思います。
 例えば、3歳くらいまでは「顔を拭いてもらうのを嫌がり、顔をそむけたり手ではらいのける」「たくさんのおもちゃを散らす」「おもちゃをとられると力づくで取り返す」「おもちゃなどをひとり占めしたがる」「なだめても叱っても強引にわがままを通そうとする」「かんしゃくを起こして大暴れして泣くことがある」などの行動が見られ、大人からすると良い育ちと思えないこともあるでしょう。もう少し育ってくると「相手が嫌がる言葉、傷つく言葉を使う」、「嘘をつく」、「なんでも一人でしようとしたがる」「ずるをしてでも勝とうとする」などの行動も見られますね。
 こうした行動が一度や二度ならば、「やりたかったのかな」「嫌だったのかな」「私の叱り方がいけなかったかな」などと思えるでしょうが、これが毎日だったり、何度言っても変わらなかったりするとイライラもつのってきますよね。しかも忙しかったり、余裕のない時だったり、公共の場であったりすることもあるので、怒りたくなくてもついつい怒ってしまうということがあるのではないでしょうか。
 
 ですが、これは発達なのです。安心したら良いのです。ちゃんと育っているのに、困ったと思うことは不幸なことです。
 
 保育ではよく、「子どもの成長を線で捉える」ことが大切だといわれます。これは、子どもの成長を「過去―現在―未来」で繋げて考えましょうということです。例えば、「相手が嫌がる言葉、傷つく言葉を使う」という行動を取り上げてみましょう。
 
 いくつか要素はあると思いますが「相手が嫌がる言葉、傷つく言葉を使う」ためには、
〇言葉の意味を理解し、正しく使うことができる
〇自身の経験から、どのような言葉を使えば効果的に伝わるのかを知っている
〇意思表示、自己主張ができる
〇嫌がる言葉、傷つく言葉を使う子どもと「言われる」側の子どもや大人たちとの関係性ができている
ことができなければいけません。これは、少なくとも赤ちゃんにはできない行動ですし、語彙力や言葉によるコミュニケーションが取れなければ可能にはならないのです。
 
 一方で、
★言われた側がどのように感じ、どのような態度(泣かれる、言い返される、叩かれる等)をとるかを予測できていない場合がある
★言われた側の対応によって、自身に降りかかるデメリット(喧嘩になるかもしれない、嫌われてしまうかもしれない、保護者や先生等の大人に告げ口されてしまうかもしれない等)を想像しているとは限らない
★嫌がる言葉、傷つく言葉を言う子ども(第一者)と言われた人(第二者)以外の人、つまりその様子を見ている、聞いている人(第三者)が、どのように思うか、どのような態度をとるかまで意識することが難しい
 
 上述した点においては、これから成長していく部分になりますね。保育の考え方で言えば、過去、現在、未来の「未来」の部分になります。「相手が嫌がる言葉、傷つく言葉」をなぜ使わない方が良いのかについて、これから時間をかけて学んでいくということです。したがって大人は、「 〇 」の部分の成長を喜びながら、「 ★ 」の部分を優しく伝えていってあげればよいのです。「悪いように育ってる」とか「あれしちゃだめ、これしちゃだめ」と考えるよりも、育っている部分とこれから育つ部分を見つめてあげればよいのです。繰り返しになりますが、ちゃんと育っているのに、困ったと思うことは不幸なことなのです。
 
 そして、もう一つ考えていただきたいことがあります。
 それは、「何故そのような行動をとるのか」ということです。理由は色々とあると思います。「皆に見てほしい」「思い通りにならないことがある」「悲しいことがあった」等々、そのときによっても異なるでしょう。でも、大人に対して行う行動には、どのような時も保護者や先生に対する絶対的な信頼があるのだと思います。
 たまに、おもちゃ売り場で大泣きして駄々をこねている子どもがいます。お母さんから「もう置いていくからね!」なんて怒られたりしても頑としてその場を離れようとはしません。怒られれば怒られるほど泣きじゃくって、仕舞にはひっくり返ってバタバタしたりして、、、でも、そうした行動ができるのは、お母さんが何と言おうと、「絶対に置いていくことはない」「買ってもらえないかもしれないけど、きっと僕の気持ちをわかってくれる」という確信が子どものどこかにあるからではないでしょうか。最後には手を繋いでくれたり、抱きしめてくれたり、優しい言葉をかけてくれるという信頼があるのだと思います。その部分は、決して崩してはいけない信頼なのだと思います。そして、そうした姿を子どもたちが見せてくれていることを大人はプラスに捉えていくべきではないでしょうか。子どもが私のことを信頼してくれているのだと。
「悪く見える子どもの育ち」その一つ一つに、相手に対する信頼と成長の証があると思います。
「どうしよう、変な育て方しちゃったなか」「困ることばかりして・・・」「このままで大丈夫かなぁ」と心配になることも時に大切なことですが、それよりもできるようになったことを褒めてあげて、これから成長していく部分を優しく支えてあげればよいだと思います。
 
 
松山東雲短期大学  保育科   
講師      浅井 広