[3歳児の喧嘩]

 [3歳児の喧嘩]
 
 子どもたちといると「○○ちゃんが叩いた~」とか「○○くんがバカって言った」といったような話はよく耳にします。ご家庭でも「元気なのは良いのだけど、兄弟喧嘩が絶えなくて」等とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?今回は子どもたちの「喧嘩」にスポットを当てていきたいと思います。特に、3歳児さんの喧嘩についてお話しさせていただきます。
 
 年齢が幼い子ども程、「叩く」や「噛む」、「泣く」等といった手段をつかって喧嘩をしますね。こうした喧嘩は、「相手の子に怪我を負わせてしまう」とか「トラブルの原因になる」といった理由から、大人にとっては善い行いに見えにくいかもしれません。実際に、相手の子に怪我を負わせてしまうケースもあります。それに、喧嘩をすること自体が子どもたちに悪影響だとも思われるかもしれません。
 もちろん、怪我を負わせてしまうことはよくないことなのですが、私はこうした子どもの喧嘩を悪いこととは捉えていません。なぜならば、子どもたちが成長する上で、喧嘩は不可欠な要素だからです。
 
 そもそも、幼い子ども、特に3歳程度の子どもはなぜ喧嘩をするのでしょうか?
 理由は様々あるでしょうが、その大きな要因は、「言葉」の発達と「認知」の発達にあると考えられます。目安ではありますが、人は概ね1歳6か月~2歳未満で2語文を話し始めます。「まんま、たべる」とか「ブーブー、きた」といった単語同士をつなげただけの単純な文章です。それが2歳~3歳になると3語文へと成長していき、言葉の数も著しく増えていきます。
 言葉がつかえるようになると、興味に応じて話すことや尋ねることが楽しくなりますね。そうして他者と言葉を使ってコミュニケーションをとっていくことによって、3歳くらいの子どもは話し言葉の基礎が培われていき、言葉で自分の思いを伝えたり、「あれなに?」や「なんで?」等と知的好奇心をもって質問したりするようになっていきます。しかし、複雑な感情や思考を様々な言葉をつかって伝えることはまだまだ難しいのです。そのため、遊びで使っていたスコップを取られたりすると「遊べなくなってしまう」し、「とられて悲しい」し、「まだ僕がつかう番だ」しという複雑な感情を言葉で上手く表現できず、「嫌だ!!」という抑えきれない気持ちを、「叩く」や「噛む」といった行動で表現しようとしているのでしょう。それが大人には喧嘩として映ると思われます。
 
 もう一つの理由として考えられるのが、「認知」の成長です。前回の鬼遊びでも触れましたが、3歳児は自己中心的な世界で生きているように思えます。かくれんぼをする時に、顔を手で覆うことで隠れた気分になったり、上半身だけカーテンにくるまって隠れてみたりという行為は、「他者から自分がどう見えているか」という認知がまだ育っていないという表れと捉えられます。自分が見えてないのだから、相手も見えていないと思うのでしょうね。
 そのように考えると、子どもの物の取り合いによる喧嘩は解釈しやすくなります。例えば、A君が使っていたスコップが一時的に砂場に置いてあったとします。そこに、砂遊びをしたい別の3歳児B君が来ると、「あっ、いいところにスコップある↑↑やった!」と思ってスコップを使い始めたりします。そこにもともとスコップを使っていたA君が戻って来ると、「それ、僕のやつ!」、「違うよ、僕のだよ」と喧嘩になる可能性があるわけですね。
 要するに、そのスコップを使って遊んでいる自分(B君)が、他者(A君)から見てどのように思われるかを想像することが難しいのです。また、そのスコップ自体がA君から見れば「一時的に置いておいたスコップ」、「まだ使うつもりだったスコップ」なのですが、そのことを踏まえてB君が使う、つまりA君が戻るまでの間だけ借りるということは難しい場合が多く、一度使い始めたら「僕のスコップ」という認識になるようです。もちろん、全員の子どもがこのような考え方になるわけではありませんが、このような場面はよく見られますね。
 
 こうした「言葉」や「認知」の発達は、人が成長していく過程として当然のことと言えます。そのため、3歳児の子どもたちが喧嘩をすることも自然なことと思えるのです。こうして考えてみたときに大切になることは、それぞれの気持ちをA君にもB君にも伝えていってあげることでしょう。「もしかしたら、A君がスコップを使っていたかもしれないよ」、「A君が遊び終わったらB君がスコップ貸してもらおうか」、「B君には、置いてあったスコップがもう使わないスコップに見えたみたいだよ」等と子どもの気持ちを代弁してあげることでしょう。言い換えれば、言葉の成長に合わせ、子どもたち同士を繋げていってあげるのです。
 これを1、2年続けていくと、だいたいの子どもは、言葉で意思を伝える、物の貸し借りや順番を理解して遊ぶ、皆で使うということが次第にわかり始めていきます。そして、年長さんくらいになると、大人の言葉がなくても、自分たちで「どうしたら皆で使えるか」を考えられるようになっていきます。もちろん、自然と自分たちで考えられるようになるわけではありませんし、そうなるためには、いくつかの条件をクリアしなければなりませんが、ここでお伝えしたいのは、喧嘩もその条件の1つということです。
 
 ですので、私は3歳児の喧嘩は成長するための大切なステップと捉えています。自己中心的な世界で生きている3歳児、しかも全員がご家庭で大切に育てられてきているアイドル的な存在なわけです。そうした状況の下、園で自分以外のアイドルと、しかも大多数のアイドルと出会ったら、当然ぶつかり合いは生じます。しかし、そのぶつかり合いを何度も繰り返しながらも、お友だちと過ごす喜びを感じるのです。そして次第に、自己をぶつけあうことよりも、お互いに楽しく遊んだり、生活したりすることの方が大切になってきます。互いに楽しく遊びたい、生活したいと思う気持ちが育まれてくると、我慢することや譲ること、思いやること、優しくすること等を学んでいきます。これがいわゆる人間関係、社会性ですね。子どもたちにとっては、その第一歩が、もしかすると喧嘩なのかもしれません。
 子どもたちの喧嘩は、大人の喧嘩に比べれば可愛らしいものです。でも、子どもたちは真剣に怒り、泣いています。大人はまず、子どもたちのそうした気持ちをしっかりと受け止めてあげなくてはなりません。でも一方で、「しっかりと成長しているな」と心に余裕をもち、子どもたちのこれからの成長を想像しながら、子どもたちの喧嘩を温かく見守ってあげたいですね。

 

 

 松山東雲短期大学 保育科

 講師      浅井 広